出会い系のサクラだった①

 10年前、紆余曲折あって金欠になった。
 知り合いのツテで仕事を紹介して貰えることになり、代官山駅近くにあるビルに出向いた。
 入るのに三度もインターフォンを経て、一室に通された。

 スーツの男が現れ、全身をジッと見据えると
「まああれだな。A社が人足りないっていうからそこのお手伝い頼む。」
 そして集合場所と日時だけ口にして部屋から追い出された。
「あっ、バックレるときは先に連絡くれよ」
 背中から聞こえてドアが閉まった。

 指定日時となり渋谷駅のモヤイ像前にいると、代官山にいたスーツの男が現れ、桜丘町にあるボロいビルに連れていかれた。「会社の住所だけ知られても困るべ?」と男は笑っていた。
 ビルの横看板やエレベータ横に掲示されてる会社名は白塗りされていて、一見誰も入居していないように見える。
 オフィスに通されると、M所長が出てきた。
 30やそこらで一見ホストのように見えたが、バックには偉い人がついていて、相応の修羅場をくぐってきているのだと聞いた。
「君はヤクザの事務所に来たと思ってるんだろうし、そう見られて仕方ないと思ってる。やってることはカスな銭拾いだし、働いてる奴はチンピラばっかで他に行き場なんてない。でも出会い系はIT系の広告屋だ。クリーンなビジネスにしていけると思ってる。いずれ新卒も取りたい。君はそのテスターだな。わからないことがあったら何でも聞いてくれ。」

 A社は当時、雨後の筍のように増えていた出会い系サイトのひとつだった。
 これを書いてる間に懐かしくなって登録してみたけど、今と使い方はさほど変わらない。
 自分の写真とニックネームを登録して、プロフィールを書く。
 ズラッと同じように登録している女の子の一覧が出てきて、気になる女の子に話しかける。
 女の子が応じたらそこからサイト(アプリ)上で会話が始まり実際の待ち合わせをする。
 登録すると「トークン」が与えられ、女の子に話しかけたりメッセージを交換する度にトークンは減っていく。トークンが0になってなお女の子と出会う約束ができないとか、もっと話したい好みの女の子がいるな、というときには、トークンをクレジットカード等で購入(課金)して会話を続けることが出来る。

 しかし当時は今のように出会い系や出会いアプリに寛容なイメージはなく、登録者の男女の非対称性は8:2程度と尋常ではなかった。
 だけどそれでは男性登録者が中々課金してくれないので、魅力的な女性を演じてトークンを使い果たさせ、「もっと話したい」と思わせるような存在、すなわち"サクラ"が必要になる。

 所長に担当部署に案内され、課長以下の先輩に挨拶した。
「おう、よろしくな!」と手をあげた若い男の太い腕に、トライバル柄のタトゥーがチラっと見えた。

 そして、サクラとしての日々が始まった。

つづく